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大切にしていること

 おかしなこうじやには、いくつかの、「大切にしていること」があります。

手仕込み、手仕事


 おかしなこうじやは、全量手仕込みの手作業です。

 友達がたまに手伝いに来てくれるくらいで、ほとんど、一人ぼっちで醸している、小さな小さな麹屋です。

 場所も、空き家になっていた、母方の実家の土間の部分を改装して使っています。

 麹づくりの専用の設備もないし、特別な道具もありません。

 そんなだから、当然ですけど、おかしなこうじやの麹は手仕込みの手作業です。

 米はザルで一つ一つ洗って、和せいろで蒸し上げます。一度蒸せるのは30〜40kg程度が限界です。

 放冷機はありません。床もみも、種切りも、全部手作業です。

 だからたくさんの量はつくれません。

 でも、つぶさに観察をしながら、一つ一つ、つくることができています。

 機械じゃないので、全く同じにはつくれないけれど、その時、その米、その環境でいちばんな麹づくりが出来るようにしています。

 そんなふうに、おかしなこうじやは、手づくりと、手仕込みを大事にしています。

五感を信じる。

 おかしなこうじやは、五感をつうじて得たものを、信じてつくります。

 もちろん、感覚だけのものづくりは、プロの職人の仕事とは言えません。

 職人の仕事に、数字は欠かせません。水分量、吸水率、種付けの温度、引込み温度、経過温度、出麹歩合…

 麹づくりには数字がたくさんあります。その時どきの麹の状態は、しっかり数字にあらわれます。

 でも、数字だけ見ていてもわからないことがあります。

 麹室に入った瞬間の香り。手で触れて、混ぜた時の熱のこもり方。麹菌の菌糸のつき方、伸び方のスピード。その時々の湿度、気温、空気感。味見をしたときの食感、甘み、うまみ。

 数字にあらわれない、微細で、些細で、繊細な肌感覚がそこにあります。

 そういうものを意識して、麹菌に向き合っていると、不思議なもので、「あー、今から一気に温度上がるんやなー」とか、「今ちょっと酸素足りてなかった気がするなー」とか、

 数字の未来というか、何となく、そういうものが分かるようになってきます。

 それを、逃さないようにしています。それを、信じるようにしています。

 数字を積み重ねて、理論をつきつめて、基本をしっかりとおさえたその上で、

最後は自分の感覚を、五感を信じる。そんなことを大事にしています。

麹菌への、リスペクト。

 おかしなこうじやは、麹菌たちをリスペクトしています。

 むかし、僕は新聞で取り上げられた時に「麹菌になりたい人」として記事にしてもらいました。

 いまでも、麹菌のようになりたい、と思っています。

 麹菌は、菌たちは、真っ直ぐです。

 どんな環境におかれても、どんな大変な状況になっても、自分たちがやりたいこと、やるべきことを真っ先にちゃんとやります。

 文句も言いません。ただ、愚直に、真っ直ぐに在るがままに生きています。

 それが、自然と人の役にたっています。

 そんな麹菌に、僕はあこがれています。

 かっこいいな、と思っています。

 僕がうじうじと悩んでいても、その間も、しっかりと麹菌が良いものをつくってくれたりします。

 僕自身は、人間は、どんなにがんばってもお米を麹に変えることはできません。

 麹菌を振りかけなければ、僕は無力です。

 本当の意味で麹をつくることができるのは、麹菌たちだけです。

 そんな無力な僕にできるのは「麹菌たちが働く環境を整えてあげる」ということくらいです。

 でも、その環境を整えてあげれば、菌たちは必ず応えてくれます。

 愚直に、真摯に、自ずから、応えてくれます。

 だから、おかしなこうじやは、そんな彼らをリスペクトしています。

農家に、ならない。

 おかしなこうじやでは、絶対にやらない、と決めていることがあります。
 それが、「農家にならない」ことです。

 僕も農家の子なので、自分で農産物をつくるよろこびを知っているつもりですが、

 自分でつくると、不思議と愛着がわく、と思っています。

 大切に育てたものだから、そう感じるのが当然だと思っています。

 でも、麹屋として、どれか一つの原料を贔屓してしまうのは、良くないと思っています。

 農産物に対して、生産者に対して、同じ愛情をもった麹づくりがしたいと思っています。

 どこが一番、とかではなくて、それぞれに素晴らしい魅力があるから、それを引き出した麹にしたいと思っています。

 だから農から少し離れたところで、なるべく公平な立場にいたいと思っています。

 丹波には、素晴らしい生産者がたくさんいます。

 僕が麹に向き合ってきたのと同じくらい、農と向き合ってこられた、すごい農家さんたちをたくさん知っています。

 そのすごい生産者たちの農産物を醸して、麹の魅力を加えて、その少し先まで届けてみたいと思っています。

 だから、「農家にならない」と決めています。

おかしなこうじやでは、こんないくつかのことを大切にしながら、今日も麹づくりを行っています。